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しらやま歯科クリニック

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訪問利用者さんが“口を開けてくれない”ときの工夫

こんにちは。兵庫県西宮市仁川町で歯医者をしている、しらやま歯科クリニックの白山です。
虫歯を治したり、子どもの矯正をしたりしています。

今回は、訪問歯科や介護の現場でよく耳にするお悩み、
「利用者さんがなかなか口を開けてくれない」というテーマについてお話しします。


■なぜ“口を開けてくれない”のか?

まず最初にお伝えしたいのは、
「口を開けてくれない」=「協力してくれない」ではない、ということです。
多くの場合、利用者さんにはそれぞれ“理由”があります。

たとえば…

  • 👵 恐怖心がある
    過去の治療の痛い記憶が残っていて、「歯医者=怖い」というイメージが強くなっていることがあります。
    特に認知症の方は、その感情が鮮明に残っていることもあります。

  • 👴 理解が追いつかない
    認知症や高齢によって、いま何をされているのかが理解できず、「怖い」「何をされるの?」という不安で口を閉じてしまうことがあります。

  • 👵 口の筋肉が固くなっている
    長年の寝たきりや筋力低下によって、物理的に口を開けるのがつらい方もいます。
    無理に開けようとすると痛みを感じることもあります。

  • 👴 羞恥心やプライド
    「こんな姿を見られたくない」「もう十分だよ」と、プライドや恥ずかしさから拒否する方も。

つまり、「開けてくれない」のではなく、
「開けられない」「開けたくない理由がある」ことがほとんどなのです。


■対応の第一歩は、“信頼関係づくり”

訪問の場面では、口腔ケアや清掃を急がず、まずは**「心の準備」**を整えてもらうことが大切です。

たとえば、
「〇〇さん、今日は歯をきれいにする日ですよ」
「痛いことはしませんよ、きれいにするだけです」
穏やかに声をかけるだけで、利用者さんの緊張がほぐれることがあります。

また、いきなり顔の近くに手を伸ばすと驚かれることもあります。
歯ブラシや綿棒などの道具を見せながら、
「これで優しくきれいにしますね」と一つひとつ見せて説明することで、安心感が生まれます。

信頼は一度に築けませんが、
「この人は優しくしてくれる」と感じてもらえると、少しずつ心を開いてくれます。


■無理に開けさせない勇気も大切

ケアの時間が限られていると、「早く開けてくれたらいいのに…」と思う瞬間もあるかもしれません。
でも、焦りは逆効果です。

無理に口を開けさせようとすると、
唇や頬の粘膜を傷つけてしまったり、恐怖心を強めてしまうことがあります。

そんなときは、その日のコンディションを尊重する勇気も大切です。
「今日は無理せず、唇の周りだけきれいにしましょうね」
と一歩引くことで、次の機会にスムーズにケアできることもあります。

歯科の現場でも、「一度失った信頼を取り戻すのは大変」だと感じることがあります。
“今日はできなかったけど、次に繋げるケア”という考え方がとても大事です。


■口を開けやすくする工夫

それでも少しでもお口の中を見たい、ケアしたい、というときには、
次のような“体のサポート”を取り入れると良い結果が出ることがあります。

  • 🪞 上体を少し起こす
    寝たままだと顎が下がり、口が開きにくくなります。
    枕やクッションで軽く上体を起こすだけで、開口が楽になることがあります。

  • 💧 口腔保湿剤やガーゼで唇を潤す
    乾いた唇はくっつきやすく、開けるときに痛みを感じることがあります。
    まずはガーゼで軽く保湿するだけでも、スムーズに開けられることがあります。

  • 💨 深呼吸を一緒にする
    「一緒に深呼吸しましょう」と声をかけて、リラックスしてもらうと、口周りの筋肉もゆるみやすくなります。

  • 🎵 懐かしい歌や会話で気分を変える
    いきなり「口を開けてください」よりも、世間話や昔話をして笑顔を引き出すほうが自然に開口できることもあります。


■ケアマネさんができるサポートとは

ケアマネージャーさんは、利用者さんとご家族、そして訪問スタッフをつなぐ大切な存在です。

「最近、口を開けてくれないことが多いんです」と聞いたら、
その背景に何があるのかをチームで共有してみてください。

例えば、

  • 入れ歯が痛いのでは?

  • お口が乾きすぎているのでは?

  • 嚥下機能が低下して、怖いと感じているのでは?

小さな気づきを共有し、歯科や看護師と連携することで、
「どうしたら安心して口を開けてもらえるか」という解決策が見えてきます。


■“その人のペースで”を大切に

私が訪問歯科で印象に残っているのは、最初まったく口を開けてくれなかった方が、
ある日「今日はお願いね」と笑顔で迎えてくれたことです。

最初は1分も口を開けてもらえませんでした。
でも毎回、
「こんにちは、今日も会いに来ましたよ」
「気持ちいいくらいでやめますね」
とお声をかけ続けていたら、
その方が少しずつ心を開いてくれたのです。

人は誰でも、安心できる人の前では自然と体もゆるみます。
“口を開ける”という行為も、信頼と安心のサインのひとつ。
その小さな変化を一緒に喜べるのが、訪問歯科や介護の醍醐味だと感じます。


■まとめ

口を開けてくれない利用者さんに対して大切なのは、
「どうやって開けさせるか」ではなく、
「なぜ開けられないのか」を考えること。

その背景には、痛み・不安・羞恥心・筋力低下など、さまざまな要因が隠れています。
ゆっくりと信頼関係を築きながら、
その方の“ペース”に寄り添うことが、もっとも確実な方法です。

そして、ケアマネさんがその橋渡し役になってくださることで、
チーム全体が穏やかに、前向きに動き出します。

お口のケアは、“その人らしさ”を支える第一歩。
無理せず、焦らず、優しく寄り添うことが、なによりのケアになります。

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